No.424(平成9年7月15日発行)

第9回学協会共通問題パネル討論会
 「21世紀に向かって学協会の生きる道」─討論の焦点とまとめ─

内田 盛也

日本造船学会創立100周年を迎える

国際的に通用する専門技術者と工学技術教育の評価認定制度

(社)日本工学教育協会 専務理事 原田 耕作


第9回学協会共通問題パネル討論会

「21世紀に向かって学協会の生きる道」

─討論の焦点とまとめ─

内田 盛也

日 時:平成8年4月19日(月)13:00〜17:00
会 場:鹿島KIビル地下大会議室
パネル討論会「21世紀に向かって学協会の生きる道」

<パネリスト>
基礎/電気部門 NTT取締役基礎技術総合研究所所長 池上 徹彦
機械部門 早稲田大学理工学部教授 土屋 喜一
鉱業金属部門 千葉工業大学教授 増子  昇
構造部門 芝浦工業大学教授 高橋  裕
化学部門 三菱化学(株)常務取締役 小野田 武

1.歴史的転換期における学協会の在り方
 平成7年12月閣議決定の新経済社会計画で、科学技術創造立国が国是とされ、科学技術基本法による基本計画と創造的人材育成による経済フロンティアの開拓が求められている。
 科学者・技術者集団として学協会の貢献が問われており、学協会の支援と行動が求められている。技術は1万年の歴史を持ち、科学は300年の歴史があり日本独特のScience Based Technologyによる世界に注目される学協会でなくてはならない。若者に産・学の未踏峰へ挑戦し成功させる機会を与え、能力向上に寄与する学協会が求められる。人間性にForward Looking とBackward Looking があるが、前向きは若者の特性なのである。

2.グローバリゼーション、地球社会へ対応する科学者・技術者のための学協会
1)会員への対応
 ・地球的変化への技術者の対応と能力向上へ寄与する学協会
 ・技術者の社会的責任、倫理観の必要性に対応する倫理規定の設定
 ・東アジアでの技術によるリーダーシップの確保への行動を支援する学協会
2)学協会の経営──米国の例から
 国際会議はビジネスである。世の中が求めている要請や戦略研究の対象などを適切に取り上げ、出席しないと世に遅れ、競争に勝てないと思う内容と運営が必要である。
 世界的に強いジャーナルの発行、世界のトップとなり、国際的に認められないものは通用しなくなる。インターネットの普及によって論文の書き方・内容が変化する。
3)ネットワーク形成
 現場の技術者に配慮した人脈づくりの支援となる学協会の在り方を見直す。
 Emerging Technologyに関する情報・人的交流を企業は求めている。
 政府とのチャンネル、規格・標準化への積極的寄与
 欧米は全世界にChapterを作る動きがあり、日本もそれを考えるべきである。
 とくに東アジアへの産業進出により、日本の技術体系による日本の学協会のアジア各地でのChapterの活動が期待される。

3.学協会の社会における存在機能の在り方
1)学協会の目的
 学協会は目的を持った機能集団でなくてはならない。仲間・好き者の集まりとして自己満足だけでは駄目である。学ぶ学会から新しい時代へ多様に対応する学協会への変化の渦中にあり「学協会の目的は何か?」を今考えるべきである。
2)教育への貢献、若者への魅力
 若者に人生進路を選択する道筋を示す努力が必要。技術者・工学者の姿が見えない。
 技術者が小説の対象にならないのでは魅力がない。魅力ある工学者の姿が必要。
 学問がボーダレスとなった。新分野への挑戦の場を若者に与えると自発的に活動する。
3)資格制度、評価点検への関与
 専門家集団として学協会の新しい役割として取り上げて行く必要がある。
4)分化と統合:緩やかな協議体形成
 学協会は他分野の取り込みが必要。本籍学会と新しい研究会的学会の考え、一方、自由で楽しいVenture的活動の手作り学会の発生という分化が進行。相互関連のための緩やかな協議体としての学協会運営が必要である。自発性と伝統性との調和による会員の選択と社会の学協会活用の場と機会の拡大。

4.学界(Academic Circle)の産業社会からの遊離
 学協会は人から成り立っている。研究費、会費すべては支持者のメッセージがついている。何のために会費を払うかを学協会は考える必要がある。
 学界全体(大学を含めて)が日本では実社会から遊離しているのが問題である。
 現代の英雄は、マイクロソフトのビル・ゲイツである。現業で活躍する人々が求める学協会とかけ離れた学界の在り方が問われ、大学の改革、科学技術教育の改革が進められている要因の多くはここに起因している。
 学協会もリストラと楽しく新時代へ対応するべく生まれ変わること必要である。
 情報の高度化により、国民の求める情報のどれを学協会が提供できるかを見直すべきである。

5.新しい学協会の役割(工学系)
 現場の技術者活動の評価を失っている。欧米一辺倒で基礎科学、英語論文へシフトしたために世界で最強の工学・技術の現場の実学に活動する最高の人々の学協会離れを起こしている。企業の学協会を見る目も厳しい。
 技術評価をする学会、その評価する能力によって学協会が一般社会から評価される仕組が必要。
 日本の学会に外国人が会員にならないのは、評価されないからである。日本の学問に魅力があれば国際的に評価され、会員となる。
 日本の産業技術への評価は高い。アジアにおける日本の立場を鮮明にして、技術を核とした学協会は展望が開けるのではないか。APEC大阪会議の成功から急速にODAも人材育成・技術協力へとシフトすることになる。

6.21世紀に向かって学協会の生きる道
 学協会の有する素晴しい財産を人類、国民のために活用するようにしたい。
 学協会の存在意義は、専門家集団として科学技術振興のための情報発信、行政・産業および国民生活への科学技術の浸透を図ることである。そのために、

@国家政策への寄与
A人材育成・専門能力向上へ貢献
B地球社会を見据えつつ日本経済の活性化への役割を担うことである。
そのために学協会は、
@本部はスリム化して、企画能力を向上し、専門・地域の特徴のある分散化への対応とネットワーク・集約化のシステムを構築する。
ALeading学協会を明確にして、社会全体や国際社会からもアプローチする窓口をはっきりさせ、Powerfulな活動拠点として再生させる必要がある。
B科学技術政策、とくに基本計画策定に対して、専門家集団としての学協会が活動し日本学術会議、経済団体と並び、社会有識者と共に、役割を担うべきである。

以上のような社会に対して存在価値のある学協会としての存在と活動のもとに、国益寄与のボランティア支援への免税、助成措置、プロジェクト委託等の資金面での供給を求めるべきである。
 事務局の合理化への苦労への対応には、学協会そのものの在り方を明らかにし、存在意義に対する国の支援が求められる。構成する学協会会員は、どのような人々なのかそれらの人々が社会に存在価値を深める組織体としての学協会を問い直し、国際社会に認知され、知的情報発進基地としての活力ある学協会へと変身するために、いま学協会指導者のリーダーシップに期待がかかっている。


日本造船学会創立100周年を迎える

 日本造船学会は5月13日、都内で創立百周年記念式典・祝賀会を開催した。式典には皇太子殿下のご臨席を賜わり、「21世紀に向けて日本造船学会が造船工学・海洋工学の技術をさらに発展させ、地球規模の環境保全や海洋空間の平和的利用にも尽力されるとともに、その造船技術並びに海洋開発技術により国民生活が一層豊かになることを願います。」とのお言葉を戴いた。また、小杉隆文部大臣、古賀誠運輸大臣、近藤理一郎科学技術庁長官(代理)、藤田良雄学士院長より祝辞が述べられた。
 本会からは石川六郎会長、須田事務局長が参列され、石川会長より「造船関連工業は敗戦の壊滅的な状況からいち早く世界の最高水準に達し、その後2度のオイルショックや近年の急激な為替変動に見舞われながら、不断の研究開発と生産技術の合理化を重ね、我が国経済の発展に大きく貢献するとともに、常に世界の造船技術をリードしてこられました。これらの活動を学術、技術の研究開発の推進や成果の普及、人的交流の促進などを通して支えてこられた日本造船学会に心から敬意を表する。」と祝辞が述べられた。
 日本造船学会の大庭浩会長は「百年の歴史を刻んでこられた先輩たちに心から尊敬と感謝の念を捧げる」とこの日を迎えた喜びを表明し、「新技術の開発、需要の創性に対する学会の役割はこれまで以上に重要になるものと考えられる」と今後の活動について決意を語った。記念式典・祝賀会に先立って記念講演会が開催され、「我が国造船100年の歩み」(元良誠三・元日本造船学会会長)、「もの造りの科学」(吉川弘行・前東京大学総長)、「海洋科学から海洋工学への期待」(平啓介・日本海洋学会会長)について講演が行われた。
 日本造船学会の前身である造船協会は船舶に関する学術技芸の発達を目的に、当時未熟であった日本造船業の飛躍を期して明治30年4月に創立された。わが国における工学関係の学会としては5番目に長井歴史を有し、また、世界の造船学会の中では、英国造船学会、米国造船機学会についで3番目に設立されている。最近は重要性の高まっている海洋工学、海洋環境工学に関する学術分野においても活発な活動を展開している。


国際的に通用する専門技術者と
工学技術教育の評価認定制度

(社)日本工学教育協会 専務理事 原田 耕作

 近年の産業・経済構造の変化に伴い、わが国産業界における終身雇用制の廃止、生産事業活動拠点の海外進出、或いは若年技術者個人の外国籍企業への就職希望増等と相俟って国際的に通用する専門技術者の資格が求められる時代となって来つつある。
 20世紀に入って、他国に先駆け専門技術者制度を創始した米国では、憲法第10条により専門技術者(PE)の管理は50州を含む55行政管区の権利とされ、各州政府は資格法と業務法を兼ねたPE法を制定している。大部分の州は、米国のモデル法に従って、教育省公認の工学技術評価認定委員会(ABET) が認可した、4年制大学の工学プログラムを修了し、工学基礎(FE) 試験に合格後、最低4年間PEの指導下で専門分野の実務経験を積み、更に工学原理・実務試験に合格することを登録条件としている。PE資格は2年毎の更新手続きが必要であり、合格者は受験した州で登録され専門的実務への就業が認められる。即ち、PE資格取得者は、政府機関に提出する工事設計書、申請書のサイン権が与えられ、更に技術コンサルタントや設計事務所の業務許可が得られる。
 米国に於いては専門技術者の資格問題とは無関係に、専門職として適切な業績を上げ得る質の良い工学技術系学生を卒業させる目的で、専門開発工学評議会(ECPD)が発足、1934年に4年制工学系大学のプログラムに対する第一回の評価認定を実施した。ABETの評価認定基準は、卒業生が専門職として実務に就くための最低の能力を保持出来るように教育水準を定めたもので、一般基準と専門別基準で構成され毎年見直されて発表されている。
 しかし、1980年代後半になって、米国産業界は世界市場において競争力を保持するため、大学における工学教育に対し、急速に変化する世界に対応出来る卒業生を輩出するよう求めはじめたので、ABETは1995年に現行基準を大幅に大綱化し融通性を持たせた改訂ABET基準2000(案)を発表、2001年からの適用を決定している。又現在ABETは28専門技術者協会の連合体であり、米国以外の工学系大学の要請を受けて評価作業を行っている。
 英国では、1981年に王室特許状により設立された工学技術評議会(EC)に専門技術者チャータード エンジニア(CEng)その他の専門職に対する登録権利が付与された。又ECの技術者登録委員会(BER)は、専門技術者資格を取得する個人の登録に必要な学究的業績、能力及び責任に対する標準を定める責務を負っている。
 ECは、専門技術者の志望者に対する登条件を定めた“登録の為の標準と経路”(SARTOR)を1990年に制定したが、産業構造や高等教育制度の変化に対応し1996年に改訂版を発行、1998年から併用し2007年に完全移行する方針を発表した。それによるとCEng志望者は、第一段階条件としてECが指名する技術者協会により認可された工学修士課程(4年制)を修了し、当該技術者協会が監督する専門能力開発訓練を受けた後、最終的にCEngによる面接試験に合格することが要求されている。尚ECは、専門技術者としての義務遂行に必要な“専門技術の継続的開発(CPD)”を義務付けている。
 近年における経済のグローバル化に伴い技術者の流動性を高めるため、北米自由貿易協定(NAFTA)加盟国の米国、カナダ及びメキシコの各公認技術評議会は、1995年に夫々の登録技術者に関する相互承認協定に調印し、協定国間で通用する専門技術者資格を定めた。又欧州27ヶ国で構成する汎欧州工学技術協会連合(FEANI)は、1993年に共通の技術者(EurIng)制度を発足し現在約19,000人以上が登録されている。EurIngの志望者は、FEANIが認可した各加盟国の3年制工学技術系大学のコースの修業、最低4年間の実務経験、即ち最低7年間の専門形成経験が要求されている。
 このような専門技術者の地域共通化傾向は、東南アジア太平洋経済協力会議(APEC)にも波及、1996年に入って豪州技術者協会主導のもとに加盟国間でAPEC技術者資格創始の検討が進められ、わが国も参加している。
 一方評価認定に関しては、英国・豪州・ニュージーランド・アイルランド・カナダの各評価認定団体と米国ABETは、1989年に夫々の評価認定基準と手順の“実質的な同等性”を相互承認した協定に調印した。これが所謂ワシントン アコードであり、4年制大学の工学教育課程内容が同等であり、協定国の他評価認定団体が認可した工学技術課程卒業生に対し、自国の認可課程卒業生と同じ特典を与えることになる。尚1996年に香港及び南ア連邦の評価認定団体の加入が認められた。
 1994年カイロで開催された世界工学団体連合(WFEO)の第3回工学技術国際会議において、工学教育の質を改善する最も有効な手段は、評価認定制度の確立であるとの結論が出されたのを受け、同年12月WFEO会長からわが国はじめ未確立国に対し勧誘レターが送付さている。
 1991年1月に81ヶ国が参加して発足した世界貿易機構(WTO)は、役務貿易一般協定(GATS) を締結した。これは各会員国が他国の役務提供者の修得した教育・経験・免許又は証明を相互承認により、或いは自主的に承認する規定を含んでいる。このような世界の動向を勘案し、(社)日本工学教育協会は、平成9年度(社)日本工学会、専門学協会及び専門技術者団体等とタイアップし「国際的に通用するエンジニア教育検討準備委員会」を発足し、わが国の工学評価認定制度の在り方について検討を行い、国際的に通用する専門技術者資格制度との接点を明確にし、併せ対外関連諸機関との交渉窓口的業務を実施するための具対策を纏めたいと考えている。