No.428(平成10年3月15日発行)

「原子力」の今日的意義を考える

科学新聞社 代表取締役社長 池田 冨士太

宮崎大学を訪ねる


「原子力」の今日的意義を考える

科学新聞社 代表取締役社長 池田 冨士太 

 昨年末の地球温暖化防止・京都会議の結果、日本は国際的な義務を果たすためには、幾多の問題と取り組まねばならなくなったが、原子力発電所は更に50%、あと20カ所増設し、その他のエネルギー源の研究開発もすすめねばならない。しかし当面は太陽光や風力、核融合も技術的、量的に間に合わない。最も技術開発の進んでいる原子力発電所については、諸手続き、設計準備を逆算すると今直ちにかからなければ間に合わない。しかるに、ご承知のように地元の反対でいずれも阻止されて新規立地は全く見込めないのが実情だ。
 このままでは、21世紀の日本産業界は電力エネルギー不足のため、生産制限や海外にエネルギー源を求めた新たな空洞化が進み、日本経済は大きく落ち込むことが予想される。
原子力発電が始まった40年前からすでに52カ所も安全に大きな事故も無く(注・参照)、総電力の3分の1を原子力が供給しているのに、なぜ近年になって原子力アレルギーが急に増幅したか。
 3〜4年前に指摘を受けて中学校・高校の教科書を見て驚いた。いたるところに旧ソ連のチェルノブイル原発事故の記述が出ていて、しかも誇大な表現が多い。
 「死者は300人」は実際には31人、しかも事故後現場に行った消防士である。「その放射能は世界中に」「がんによる死者が多数でている」等々。
 また、「(原子力発電所では、)小さな事故はしばしばおこるが、その修理や清掃などの仕事をするのは、おもに下請けの会社の従業員である」等々、記述は特に社会・地理がひどく、何か意図的な感じさえする。
 それぞれの分野の専門家にこれらの教科書を見て頂いたら、一様に驚きかつ呆れられた。近年、大学において原子力関係学科への進学希望者が減少しているので、東大などは学科名を変えた(システム量子工学科)。これは中学校・高校における教育に原因があったのではと気付く。そこで日本原子力学会では「原子力教育・研究特別専門委員会」において検討し、文部大臣に改善を申し入れた。文部省では「南京虐殺」「従軍慰安婦」等々海外、右翼、ODA問題その他で外務とか各省庁等からも持ち込まれているが、明らかに間違いと断定できるもの以外は訂正命令が出せず、教科書会社や執筆者の問題ということであった。そこで当社では教科書会社にお願いして、問題点を指摘した文書を全教科書会社に送付して頂いた。しかし、反映されるとしても時間が掛かる仕組になっている。その上、もんじゅなど一連の動燃問題が発生、又々教科書で新たな話題として登場するのではと心配だ。
 この様な逆風にさすがに日本学術会議は昨年3月、会長・副会長、第1〜7部長・副部長が全員出席し、原子力開発は進めるべしと決定し関係機関に要望した。
 不祥事を抱えた科学技術庁は勿論、文部省・通産省も積極的には言いにくいようだが、国の機関でもある科学者の国会は良識を示した。但し児童・生徒・学生・社会人に対し、客観性ある学習の機会提供、教育・研究基盤の確立、安全や利用の科学技術推進を提言している。もう既に何千万人かの人びとが中学校・高校で原子力への不安と悪いイメージを与えられ、反面その必要性や科学的問題の教育を受けないで社会に出てしまっている。
 そこで大学などで「総合エネルギー学」として人文・社会・理科すべての領域、学科を超えたカリキュラム又は講座を設け、学術会議の要望にある客観性のある学習を行ってはどうか。
 折角の学術会議の提言も今の時機は行政も、まして営利企業である電力会社も、世論に気兼ねして積極的に活かせないでいる。
 その点、エネルギーの最大のユーザーである産業界の技術者・科学者の96の学会連合体で、日本学術会議第5部の母体でもある日本工学会の会員の方々なら、エネルギーのユーザーとして社会に対し客観性ある論理の展開や開発促進のアピールも、行動できるのでは。
 ご期待申し上げたい。

※ 注)原子力発電所のトラブルの大きさについては、国際原子力機関 (IAEA) と経済協力開発機構 (OECD) から提案された国際評価尺度を世界59カ国で採用している。
 それによると、トラブルは0〜7までの8段階に分類され、0が「尺度以下」(Deviation)、1〜3が「異常な事象」(Incident)、4〜7が「事故」(Accident)、となっている。
 これによると、旧ソ連・チェルノブイル原発事故」が7、「米・スリーマイル島原発事故」が5、「日本・美浜原発事故」が2である。この国際尺度によると、日本は事故が一度も無い。しかも、設備容量の年々の増加と反対に、トラブル件数は減少している。


宮崎大学を訪ねる

 研修旅行は事務研究委員の年中行事の一つで、各地の工学部の先生方との情報交換を主題としている。平成9年度の事務研究委員会研修会は宮崎大学工学部で行われた。宮崎大学を選んだ理由は、工学部、農学部、教育学部が新しいキャンパスに集中していることと、工学部の先生方がユニークな研究に取り組んでおられるからである。
 11月27日(木)大部分の参加者は羽田発8時50分のANN603便を利用した。宮崎空港着10時25分、実に平坦な空港である。海側から滑走路を文字通り滑るように進入する。空港で宮崎名物の昼食をとる。もう宮崎名物の“焼酎”を試す不埒なもの(自分のこと)もいる。食後タクシーに分乗して大学キャンパスへ。驚いたことに正門にデカデカと「日本工学会事務研究委員会会場」なる立て看板が出ているではないか。いままで20近い大学を訪問したが初めての歓迎看板であった。
 まず、長谷川武夫学部長にご挨拶、ご案内役の先生方について一同ゾロゾロと校内を見学する。各研究室で担当教官が専門的な説明をされるが、筆者にとってはわからないことだらけであった。
 研究棟の屋上にのぼる。広々としたキャンパス、隣接の農学部・教育学部を望む。周囲は住宅街、農地と空間のみである。素晴しい環境の下、研究に没頭する研究者、のびのびと勉学するであろう学生、ふと感傷に浸った。
 見学後、会議室に戻り、日本工学会側の出席者と大学側の出席者の紹介があり、日本工学会側から次のような話題提供を行った。

(1) いま学協会が抱えている諸問題

日本化学会常務理事 中西 敦男

(2) 効率的な学術論文の情報伝達システム

日本機械学会事務局長 高橋 征生

(3) 日本工学会の事業活動について

日本工学会事務局長 須田  了

 引き続き次のような質疑応答があった。

@日本工学会を初めて知った
A科学技術基本計画の内容が理解でき、それが学協会を通じて先生方にも関係があることが分かった。
B論文投稿、掲載までのシステムがよく理解できた。それにしても査読に時間がかかりすぎることに対する質問が多かった。

 懇談会を済ませ、宮崎大学をあとに、かの有名なシーガイアサミットの施設を見学、宮崎大学の先生方や地元のコンベンション関係者も交えて、シーサイドホテル・フェニックスにおいて懇親会が開かれた。
 翌11月28日(金)は中西日本化学会常務理事のお世話で、旭化成(株)延岡工場を見学した。概要説明によると延岡工場だけで100に及ぶ製品があり、さすが総合製造工場の感が深かった。その中から特に選んで見学したのは「ベンベルグ工場」である。高校生の社会見学と同様で、聞くにつけ、見るにつけ驚きの連続であった。

@“ベンベルグ”は旭化成(株)の商品名であり、この種の繊維は“シルキー繊維”という

A“ベンベルグ”は化学繊維ではなく、コットンを原料とした天然繊維であること

Bこの工場が大正12年に創業し、現在もほぼ同じ設備で操業していること

C“シルキー繊維”の90%がこの工場で生産されており、全くの寡占企業であること

 旭化成延岡工場で今回の研修旅行は終わったが、有志によるオプション・ツアーが次のように企画され、大部分の委員が参加した。

延岡マ高千穂峡(昼食)マ阿蘇山(噴火中で火山博物館見学)マ熊本空港マ熊本駅

 最後に、今回の計画にあたって宮崎コンベンション・ビューローのお世話になった。あらためて感謝の意を表したい。

               (文責:須田)