No.429(平成11年7月30日発行)

 

21世紀に向かって学協会がめざす課題
(1999年4月21日開催の第12回学協会共通問題に関する討論会での挨拶)

日本工学会 会長 石川 六郎

会長退任にあたって−産学官を横断する専門家集団としての学協会

鹿島建設(株) 名誉会長 石川 六郎

会長就任のあいさつ−専門職機能の充実をめざして−

工学院大学 学長 大橋 秀雄

定款改正に伴い文部省へ陳情

科学新聞連載「学協会が社会に果たす役割」

学協会の運営責任者は誰か?−日本都市センター会館内覧会・セミナ−

わが学会のこだわり−何故編修なの?編集ではないの?−


21世紀に向かって学協会がめざす課題

(1999年4月21日開催の第12回学協会共通問題に関する討論会での挨拶)

日本工学会 会長 石川 六郎

 本日は、討論会に多数のご参加を賜りまして、厚く御礼申し上げます。また、今回ご講演をいただく人事院人事官 市川惇信先生をはじめ、諸先生方には、公務ご多端の折にもかかわらず、快くお引き受けいただき、誠に有り難うございます。
 戦後最悪の不況にも下げ止まり感が期待されていますが、本格的な日本経済の回復には新産業の創造が不可欠であります。また、我が国が世界のフロントランナーの一員として、諸外国と共存しつつ発展を続けるためには、国際競争力の向上、並びに、人類共通の問題解決への積極的貢献が求められます。天然資源に恵まれない我が国が、これらの課題に応えていくためには、国策として科学技術の振興を積極的に進めることが不可欠であります。
 科学技術基本計画に沿って、政府研究予算が伸びていることは大いに評価されますが、それらをより有効に使うためには、今後取り組むべき重点分野を冷静に見極め、我が国研究費の8割を占める民間研究との相乗効果を十分考慮し、国家戦略的見地より予算の重点配分を行う必要があります。
 また、少子化が進む中で青少年の理科離れに歯止めがかからない状況や、大学での工学教育に社会ニーズの変化や最先端の科学技術動向が迅速に反映されにくい状況への対応など、教育・人材育成面の改善も、科学技術立国の基盤を形成する極めて重要な課題であります。
これらの各種取り組みを行う上で、産学官を横断する専門家集団としての学協会の役割が一段と重要なものとなることを、我々学協会関係者としても、十分自覚しておく必要があると思います。
 さて、学協会をとりまく環境も急速に変化しつつあります。今後、学協会が、期待される役割を果たしながら健全な発展を続けるための課題を、何点が申し述べたいと思います。
 第一の課題として、地球規模で急速に進む高度情報化社会への対応が挙げられます。インターネットの普及は、学会誌や論文誌などの現行の情報伝達媒体のあり方を大きく変える可能性があり、学協会の活動内容や運営方法に重大な影響を及ぼし得るものです。技術の進歩と、学協会をとりまく社会や会員のニーズをしっかり把握し、迅速・適切な対応をとっていくことが肝要です。
 第二は、科学技術と社会の新たな係わり方が問われる時代において、学協会における情報発信機能の強化が求められているということです。科学技術の急速な進歩は、社会に一段と大きくかつ複雑な影響を及ぼすようになってきております。科学技術が世の中の役に立ちながら健全に進歩していくためには、科学技術に関わる専門家と社会が良好なコミュニケーションを図ることが益々重要となります。学協会は、その専門性、中立性を生かし、積極的に専門家の声を社会に向けて発信すると共に、社会の反響や要望を感度良く取り上げ、専門家に伝えるという機能の強化・充実が求められています。
 第三の課題として、財務基盤の安定化が挙げられます。工学系の学協会の多くは、法人賛助会員制度を導入し、財務面で企業の支援を受けています。しかしながら、長引く不況と熾烈な競争の影響で、賛助会員の減少傾向が顕著となってきております。学協会の活動状況やその意義を正確に伝えたり、賛助会員へのサービス内容の充実を図り、企業の理解促進に努めることが必要ですが、同時に、法人賛助会員への財務面の依存度を下げ、より安定的な財務構造の構築を考えることも重要と思います。
 この点につきましては、各学協会それぞれが努力・工夫すると共に、学協会の担う機能を積極的にピーアールし、公的支援の拡充や学協会活動に関する規制緩和を関係各方面に訴えていくことも必要かと思います。
 以上申し述べましたような学協会を取り巻く環境が大きく変化する中で、今回の討論会は、「21世紀に向かって学協会はどのように変わっていくべきか」ということをテーマと致しました。前半の市川先生のご講演は、社会と専門家集団の関わり方にも関連する示唆に富むお話しと推察いたします。また、後半は、新たな学協会のあり方を目指し、精力的に取り組まれていす3学会から、最近の活動をご紹介いただくこととなっております。
 本日の討論会が、21世紀の科学技術立国実現に向けて重要な役割を担う、学協会の今後を考える上で、有意義なものとなりますことを祈念いたしまして、開会の挨拶に代えさせていただきます。


会長退任にあたって

−産学官を横断する専門家集団としての学協会−

鹿島建設(株) 名誉会長 石川 六郎

 会長退任に際し、一言ご挨拶申し上げます。
 4期8年にわたり会長を務めましたが、その間に会員学協会の皆様より賜りましたご理解・ご支援に心より感謝申し上げます。
 私が、尾佐竹先生の後任として日本工学会の会長に選任されたのは、1991年の4月でした。1989年暮れの東西冷戦終焉の後、世界が大きく動き出した頃でした。国内では、バブル経済が崩壊し、今日に至る長い下り坂を転がり始めた頃でした。
 皮肉なもので、日本が自信を持っていた頃には、科学技術振興の重要性を訴えても大した反応は無く、工学会の活動範囲も比較的限定されたものでした。ところが、1994年ごろからでしょうか、「長引く不況を克服し、日本を再生するためには科学技術の振興しかない」、という気運が現れ始めました。そして、工学会が学術会議など関係団体と連携しつつ積極的に関係各方面に働きかけました「科学技術基本法」が、1995年11月、議員立法により与野党全会一致で成立したわけでございます。翌年7月には、「科学技術基本計画」が閣議決定され、研究費の政府負担比率を欧米並に引き上げることを念頭に、2000年度までの5年間に17兆円を投入する方針が打ち出されました。これを契機に各方面で科学技術振興に向けた新たな試みが活発化したことはご高承の通りです。
 日本工学会の活動も、政府に対して国としての科学技術政策機能強化を要望したり、関係省庁から各種委託事業や協力依頼を受けるなど、広がりを見せるようになりました。長年工学会が中心となって取り組んでおりました、学協会著作権協議会の活動が軌道に乗ってきたのもこのころです。
 その後今日に至るまで、科学技術振興に関わる様々な活動に関わりを持ってきたわけですが、これも偏に、会員学協会のご理解・ご支援を頂きながら、工学会の役員にご就任頂いた先生方や、事務研究委員会の皆様、それに、須田事務局長をはじめとする工学会事務局の皆様が、情熱を持って熱心に取り組んで頂いたお蔭であります。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。
 今後、産学官を横断する専門家集団としての学協会の役割は、わが国が21世紀の科学技術立国を志向する上で一段と重要になることは間違いありません。
 大橋先生という最適の人材を会長に得て、工学会が科学技術立国の実現に向けて一段と重要な貢献をされることを確信しておりますが、会員学協会の皆様には、今後とも工学会の活動に旧倍のご理解・ご支援をお願い申し上げます。
 改めて、8年の間に皆様より賜りましたご理解・ご支援に感謝申し上げ、退任の挨拶に代えさせていただきます。

(1999年4月21日)


会長就任のあいさつ

−専門職機能の充実をめざして−

工学院大学 学長 大橋 秀雄

 このたび120年の伝統を誇る日本工学会の会長に選出され、その責任の重さに身の引き締まる思いを噛みしめております。東西冷戦終結後の激動の8年間、折々の問題に適切に対処し、またタイムリーに見識を発信して本会の存在感を高めてこられた石川六郎前会長のご功績に敬意を捧げ、その勢いを更に発展させるべく努力する所存でおります。
 工学会は、その発足当初は、工学士の親睦団体であり、学術交流の学会であり、また学識者の集まりであるアカデミーの機能も兼ね備えていました。工学士の数が増え、また専門分化が進むにつれて工学会はやがて多数の学会に分裂し、設立後40年余を経た時点で専門学会を会員とする連合体に組織変換を図りました。工学分野全体を対象とする組織としては、科学者の代表の集まりである日本学術会議第5部(工学)、傑出した個人の集まりである日本工学アカデミー、学協会連合としての日本工学会、有資格技術者集団、例えば日本技術士会などがあります。それぞれの組織は、固有の役割を明確に認識して、その責務を果たさなければなりません。
 日本工学会の役割を考える上に、医学系学協会の集まりである日本医学会が良い参考となります。医学系の各学会は、その専門分野、例えば小児科学の科学としての進歩を担うと同時に、小児科専門医の教育・認定・研修に欠かせぬ役割を担っています。前者を学術機能、後者を専門職機能と呼ぶと、近年後者の役割が急激に高まりつつあります。工学系学協会を取り巻く情勢も、医学系と同様に変わりつつあります。
 日本工学会は、工学系学協会の学術機能のみならず専門職機能も代表しています。学協会会員の大半が技術者によって占められていることを思うと、本会は250万人技術者のキャリアーを生涯にわたっていかに守り通すかに最大の関心を払わなければなりません。この新しい課題を会員学協会と協力していかに実現するかに、在任中最大の努力を集中したいと思います。皆様方の厚いご支援をお願いして、就任のご挨拶と致します。


定款改正に伴い文部省へ陳情

 学会法人(学術団体)は本年9月まで「公益法人の設立認可及び指導監督基準の運用指針」に則った定款にすることが文部省から指導され、各学術団体は精力的に定款改正作業をいたし、臨時総会などを開催し定款改正の申請をしたことと存じます。
 それに伴い、このたび日本工学会では文部省に各学術団体から定款改正申請があったら1か月後には認可するよう文書でお願い致しました。
 文部省では極力ご要望に沿うよう事務手続きをするとのことですが、多少時間がかかるようです。
 なお、理事の2年任期制、総会定足数を過半数にしたことによる代議員制(評議員)の導入等は各学会の定款改正が総会で承認されたら実施してよいとのことです。

(須田 了)


科学新聞連載

「学協会が社会に果たす役割」

 科学新聞社の企画による「日本の学協会が社会に果たす役割」と題する特集記事が連載されています。

 学協会も現代社会の激しい変化の波にさらされていますが、今後の学協会の状況改善を国の政策に反映する絶好の機会となりました。

第1回(1999年7月2日) 社会の中での「学協会」の位置付け

日本工学会 会長 大橋 秀雄

 

第2回(1999年7月9日) 科学技術政策と「学協会」

日本学術協力財団 理事 内田 盛也

 

第3回(1999年7月16日) 国際化と「学協会」

学位授与機構長 木村 孟

 

第4回(1999年7月23日) 大学の改革と「学協会」

滋賀県立大学 教授 曾我 直弘

 

第5回(1999年7月30日) 教育−人づくり−と「学協会」

鐘淵化学工業M 会長 館  糾

 

第6回(1999年8月6日) 産学連携の中での「学協会」

新日本製鐵M 顧問 富浦 梓

 

第7回(1999年8月20日) 学術情報発信基地としての「学協会」

学術著作権協会 常務理事 中西 敦男

 

第8回(1999年8月27日) 学協会の社会貢献−阪神・淡路大震災の実例−

日本工学会評議員・土木学会専務理事 三好 逸二

 

第9回(1999年9月3日) 「学協会」の財政問題(税制問題も含む)

東京大学 教授 木内 學

 

第10回(1999年9月10日) 「学協会」の大同団結

三菱化学M 顧問 小野田 武


学協会の運営責任者は誰か?

−日本都市センター会館内覧会・セミナ−

 1999年6月上旬に新装開館する日本都市センター会館の内覧会が東京コンベンション・ビジータス・ビューロー等の関係者の協力により去る5月21日(金)日本工学会加盟学協会対象に開催された。
 新装の日本都市センターは宿泊施設(シングル中心の部屋数)が整った国内会議を初め国際会議なども出来る都内では数少ない施設である。
 引き続き、全米眼学会副会長(会議・展示担当)デブラ・ローゼンクランス女史により「全米眼学会における会員サービスの現状とミーティング・プランナーとしての学協会の役割」について講演が行われた。

1.全米眼学会の現状

@会員構成(開業医の95%がメンバーになっていて会費は645ドル)

Aスタッフの数(会員25,000名に対して200名のスタッフ)

B事業内容(会員の地位向上のためのロビー活動を初め諸行事開催)

C会員サービス(会員へ仕事の斡旋、一定の医療の質を落とさない様な情報の提供等)

DPR活動(アメリカの市民がいつでも欲しい情報が入手出来るような体制)

E財政(会費に頼らない運営をするために会社設立・保険会社からローヤルティ収入等)

F会議・展示(スタッフ18名、会議・展示会を担当し約1,100万ドルの収益をあげている)

2.学会の運営・問題点

@利益追求する人の人材不足(協会で働く人)

Aミーティング・プランナーは戦略的に重要な役職になっている。

B若い世代の取り込み、労働に対する意識・価値観が変わってきている。

Cインターネットの出現で、煩雑さがまし、ミーティング開催にも影響が生じて、会議運営も新しい時代に入った。

D効率的運営のために構造改革をしていく必要がある。

3.インターネットへの対応(質疑応答から)

@本学会でもインターネットをどう使うのか、協会の枠を利用してビジネスに結びつける可能性について検討している。

A今は印刷物などを電子媒体にしてコストを落としているに過ぎない。

(文責 高橋 征生)


わが学会のこだわり

−何故編修なの?編集ではないの?−

 日本機械学会組織の「編修理事」「編修課」の標記に、初めて理事に就任された方の中に、違和感を抱く方が少なからずおられます。昨今はワープロやパソコン利用の変換のし易さから、「編修」を「編集」にしてはとの声も聞こえるようになりました。
 標記の質問が発せられた時に事務局長から聞く説明として、編集はただ原稿を集めるだけの意で、辞書を引けば、「編修」の文字こそが書物をこしらえる意(編集は乱用代用語ともある)で使われることとなるとつき放されます。本会は長い歴史を背負って、会誌や論文集、専門図書等を編修発行しているのであって、ただ編集しているのでは無く、書物をこしらえる重い職責を担っているのだという認識をもって、仕事に望めとの諸先輩からの忠告が込められているとして「編修」にこだわっております。
 本会の歴史をひもとけば、戦前とくに創立時から法人化以前(明治30年〜大正13年)の定款にあたる本会規則にはすべて編修は、この「編輯」「編輯員」が使われており、法人化後に簡略な方の「編修」が使われています。また、明治(初期)という時代は、学問分野でも洋学・漢学・国学派の如何にも関わらず、やはり漢字はその原義に則った言葉が使われており、上記規則の第19条では、「編輯員は曾誌の編纂を掌る」の表記が見られます。今であれば、「編集者は会誌の編集を行う」程度の表現になってしまい、機能性ばかりが前面に出ることになって重みは無くなってしまうのかもしれません。その内「エディターがジャーナルをパブリッシュする」なんて、カナばかりのどこかのパソコン雑誌顔負けの表現に変わることも時間の問題かも知れません。
 なお、作家 陳 舜臣 氏は、「過去の中国で、官吏登用の最難関の科挙試験に合格した中で、優秀者を「翰林院」という所で研修させ、更にそのトップクラスは『編修』という職につけさせ、歴史の編纂を掌らせた」と記述しています(「よそ者の眼」講談社)。まさか、その歴史まで斟酌して先達等が使用したのではないのでしょうが。ちなみに、この編修の文字を今でも使用しているのは、インターネットのWEBで検索しヒットした結果からも、国内では本会と電気学会だけのようです。言葉は時代と共に変遷しますが、そこに込められている言葉の重さを噛み締めて使って行きたいものです。

(社団法人 日本機械学会 総務課長 福澤 清和)