第6回 科学技術人材育成シンポジウム報告
第6回 科学技術人材育成シンポジウム
- 科学技術コミュニケーションの展開と人材育成-
2015年2月14日開催

国民が科学技術を身近に感じ、強い関心を抱くような社会をつくり上げていくためには、研究者・技術者と社会との間の双方向のコミュニケーションを促進することなどにより、国民が科学技術に触れ、体験・学習できる多様な機会を提供することが必要になります。 今回のシンポジウムでは、よりよい社会を形成していくために、科学技術者が社会と双方向でどのようなコミュニケーションをいかにとっていくべきなのか、仕組みや科学技術者の求められる資質や人材育成について討論を行いました。
以下にその内容の一部をご紹介します。

開催概要
日時:2015 年 2 月 14 日(土) 13:00~17:00
会場:日本学術会議講堂(東京都港区六本木7-22-34)
        地図:http://www.scj.go.jp/ja/other/info.html
主催:日本工学会 科学技術人材育成コンソーシアム
       日本学術会議(土木工学・建築学委員会、機械工学委員会)
【コンソーシアム構成学協会・機関(50音順)】:計測自動制御学会、電気学会、土木学会、
         日本機械学会、日本技術士会、日本技術者教育認定機構、日本建築学会、
         日本工学アカデミー、日本塑性加工学会、日本電機工業会、日本非破壊検査協会
        
後援:文部科学省、経済産業省、国土交通省、科学技術振興機構、日本経済団体連合会、
         読売新聞社

プログラム(講師等の敬称略)
総合司会:松村 暢彦(コンソーシアム幹事)
開会挨拶:有信 睦弘(コンソーシアム代表)
  1. 基調講演
    • 「科学コミュニケーションの潮流」 講演概要
      講師:横山 広美 (東京大学大学院理学系研究科 准教授)
  2. 講 演
    • 「科学技術コミュニケーションに関する国の取り組み」 講演概要
      講師:松尾 泰樹 (文部科学省大臣官房参事官)
    • 「科学技術コミュニケーション活動の実態」 講演概要
      講師:藤田 尚史
      (独立行政法人 科学技術振興機構 科学コミュニケーションセンター)
    • 「専門家と世間のコミュニケーション 「大学の実力」調査から」 講演概要
      講師:松本 美奈 (読売新聞専門委員 社長直属教育ネットワーク事務局)
    • 「自然現象の見える化の必要性 ~数値表示の本質を受け止めることを一般教養に~」 < 講演概要
      講師:小峯 秀雄 (早稲田大学理工学術院 教授)
    • シンポジウム光景
  3. パネル討論「これからの科学技術コミュニケーションと人材育成」 ( 討論概要 )
    • コーディネータ:依田照彦(コンソーシアム副代表)
    • パネリスト:横山広美、松尾泰樹、藤田尚史、松本美奈、小峯秀雄
    • パネル討論光景
閉会挨拶:松瀬 貢規 コンソーシアム副代表
以上
講演概要

科学コミュニケーションの潮流

横山 広美 (東京大学大学院理学系研究科 准教授)

科学コミュニケーションと聞くと、アウトリーチのことだと思う方が多いようである。確かに日本は教育普及的な側面が得意であるし強い。しかしscience communicationとは、本来、科学と社会の間の信頼を構築するため、科学技術に関する情報を社会で共有し、立場の違う人、家族構成の違う人、いろいろな価値観の人々が話し合い、合意形成を重ねていくことを意味する。日本においては東日本大震災の原発事故やSTAP細胞の騒動など、科学と社会の間で信頼が失われる事柄が続いている。科学・技術を学ぶ方が、科学コミュニケーションを教養として学ぶことは非常に意味があると思われる。
1980年代までは科学者から公衆への一方向への情報提供によって、公衆が科学者と同様の「理解」し合意する解決が可能であると考えられてきた。しかしそれでは科学者と社会との信頼関係を築くことはできなかったことが、イギリスにおけるBSE騒動で明らかになった。哲学や社会科学分野での議論の蓄積も背景に、90年代半ばからは、それまでの理解増進運動から、市民参加・対話を重視する方向に変わっていった。
科学コミュニケーションは、ヨーロッパにおいては、公衆の声を政策に反映させるための手法に定着し(たとえば、デンマークのコンセンサス会議)、科学イベントも充実している。アメリカでは、大統領選など政治状況が異なり、娯楽の一部に組み込まれる傾向が強い。日本では、理科教育支援の取り組みが強く、市民の声を反映させるための活動は実験段階にある。このような各国の異なる背景や文化を踏まえて、科学コミュニケーションの活動を理解する必要がある。
科学コミュニケーション活動ではメディエーター(ジャーナリスト、コミュニケーションの専門家、科学博物館など)が重要な役割を担っている(Science Communication1.0)が、インターネットの発達に伴って、研究機関や研究者が直接、公衆がつながる活動(Science Communication2.0)にシフトしてきた。そうした変化に柔軟に対応をしていくことも必要である。  
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科学技術コミュニケーションに関する国の取り組み

松尾 泰樹 (文部科学省官房参事官)

第4期科学技術基本計画の「2.社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に科学技術コミュニケーション活動の推進が位置づけられ、より積極的に活動が展開されている。たとえば、サイエンスアゴラや日本科学未来館における科学コミュニケーターの育成、科学技術振興機構社会技術研究センターによる科学技術成果の社会実装の取り組みなどがあげられる。
現在、求められている科学コミュニケーションとしては、科学技術がもたらしうる正と負の側面を広く社会で知識や情報を共有し、行政、専門家、事業者、メディア、市民など多様なステークホルダーが関与する双方向的・相互作用的なコミュニケーションがあげられる。東日本大震災の後、リスクコミュニケーションに関する委員会を立ち上げ、議論したが、社会の各層が対話・共考・協働を通じて、各ステークホルダーが広く互いの立場や見解を理解したうえで、それぞれの行動変容に結びつけることのできる共感を生むコミュニケーションの場を目指すべきといえる。  
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科学技術コミュニケーション活動の実態

藤田 尚史

(独立行政法人 科学技術振興機構科学コミュニケーションセンター)

科学コミュニケーションは、市民の科学リテラシーの向上から始まり、専門家から市民へのアウトリーチ、専門家と市民との間の双方向コミュニケーション、行政、専門家、事業者、メディアそして市民等のマルチステークホルダーによるコミュニケーションと、移りつつある。簡単に言えば、「伝える」から、社会とともに「つくる」形への拡大である。「つくる」コミュニケーションの例としては、フューチャーセッションやWorld Wide Viewsのようなグローバル対話などがあげられる。科学コミュニケーションといっても、すべて同じように考えるのではなく、扱うテーマや対象、フェーズ、関与者、目的などによって分けて考える必要がある。科学技術をめぐる世界の潮流としてResponsible Research and Innovationということが言われている。研究とイノベーションの方向性を社会の価値・ニーズ・期待とそろえようとするプロセスで、欧州連合では、科学技術・イノベーション政策の基本計画であるHORIZON2020での”Science with and for Society”プログラムの推進テーマとしても位置づけられている。JSTの科学コミュニケーションセンターは、科学をめぐるコミュニケーションギャップを解消し、科学と個人、社会のよりよい関係を作り上げることを目指して、さまざまな事業を展開している。たとえば、科学技術情報の発信・共有や、サイエンスアゴラに代表される科学技術と社会をつなぐ場の提供などがあげられる。  
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専門家と世間のコミュニケーション 「大学の実力」調査から

松本 美奈 (読売新聞専門委員 社長直属教育ネットワーク事務局)

専門家集団の大学と世間の間には深い溝がある。ある私立大学の英語の再履修の授業で、口と体を動かしながら中学レベルの基礎から理解できる工夫をし、受講生の学習意欲を引き出すなど効果をあげていた。この授業の内容を新聞に書いたところ、大学関係者からは賛辞がよせられる一方で、一般読者からは「こんな授業は大学ですべきではない」など厳しい声が送られてきた。「大学の実力」の調査を通じて、大学の教育力向上のための取り組みや授業を工夫し情熱を持って教育に力をいれている教職員も少なくないことを知っている。しかし、世論調査の「大学は社会の期待に応えているか」という問いに対して、答えていると回答した人は4割に過ぎなかった。両者間の隔たりの原因として、大学が世間に対して効果的なコミュニケーションをとっていないことが挙げられるのではないか。たとえば、似たり寄ったりの大学の公式ホームページ、むやみに個性を追求した、内容がつかめない学部名。大学は、「世間は理解したがっていない」ことを前提として、コミュニケーション戦略を立て直すべき時期に来ている。  
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自然現象の見える化の必要性 ~数値表示の本質を受け止めることを一般教養に~

小峯 秀雄 (早稲田大学理工学術院 教授)

人はある事柄に関心を持ち始めると、他の事柄に目が向かなく傾向があり、関心を持った事柄が目に見えない事柄だとことさら不安に感じてしまう。そこで、自然現象を見える化し、興味・関心を持ってもらうことが重要になる。たとえば、液状化現象やベントナイトの遮水性能の可視化実験などの教材が開発されている。また、東日本大震災以降、さまざまな事項が数値として表示されるようになった。しかし、この数値について物理法則を考えずに,ただわかりやすく表現しようとすると「ただちに影響がない」という表現になってしまう。そうではなく、自然現象に興味・関心を持ってもらった上で、定量的に思考することが重要である。定量的とは、単に数値で示すだけではなく、その数値で表示される意味・本質を受け止めて、専門家を盲目的に信じるのではなく、さまざまな判断を自分で行うことである。今まで理科系進学者のみが学べばよいと考えられてきた教科や法則(たとえば、質量保存の法則など)を「人が人生を全うする上での必要不可欠な一般教養」として、小学生から必修で教育すべきである。  
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これからの科学技術コミュニケーションと人材育成

コーディネーター
依田照彦(日本工学会 科学技術人材育成コンソーシアム 副代表)

パネリスト
横山広美(東京大学大学院理学系研究科)
松尾泰樹(文部科学省)
藤田尚史(独立行政法人 科学技術振興機構)
松本美奈(読売新聞)
小峯秀雄(早稲田大学理工学術院)

科学技術コミュニケーションがどうあるべきかについて、科学コミュニケーターだけではなく全員が関わることが重要、一番怖いのは無関心、マルチのステークホルダー間のコミュニケーションによるイノベーションを期待など各パネリストから補足説明があった。その後、フロアから以下のような活発な質疑応答がなされた。
  • 科学で分かっていないことをどう伝えるかについては、分かっていないと言うことを伝えることがモチベーション向上に資する可能性があるとの意見があった。
  • 定量的、定性的な情報提示の是非については、二値化してしまう定性的な情報の怖さを理解してもらう必要がある、相手にとってわかりやすいように定量と定性的なデータを織り交ぜる必要があるとの意見があった。
  • 科学技術コミュニケーションについては、人が豊かに生活するためにリベラルアーツとして文化づくりから考えていく必要があるとの指摘があった。
  • 大学の大衆化時代を迎えて、企業や社会と大学でどういう人材をつくるのか、どんな人にどんな能力が必要かについて議論するべきとの意見があった。
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